DOCUMENTARY EP.01
密着ドキュメンタリー本編(約17分)。YouTubeで見る
新店舗のための器と機材の買い付けに、合羽橋へ向かう篠田匠さん(合同会社匠進代表)に同行させてもらった。中目黒の「魚の花」から始まり、独立5年で3店舗を経営。買い付けの合間に聞いた話は、開業本には書いていない「お金と物件のリアル」だらけだった。まずは、1店舗目の数字から始めたい。

2,000万円のつもりが、3,200万円かかった
4年前に開業した1号店「魚の花」(中目黒・18坪)。スケルトンから電気・ガス・水道、器も最初の仕入れも全部込みで、かかったのは約3,200万円だった。
「僕の中では2,000万円でやるつもりだったんですよ。『そんなにかかるの?』っていうところからスタートして、マジで何回も潰れかけてるし、ショートして。けどその度になんか売り上げがちょっと良くなって、なんとか生き残ってますね」
想定の1.6倍。これは篠田さんの見積もりが甘かったという話ではない。内装業者に「いくらかかりますか」と聞いて返ってくる答えは、基本的に「わかりません」なのだという。壊してみないと何が必要かわからない。資材がいくらで手に入るかもわからない。そういう世界だ。
しかも、物価は上がり続けている。
「昔は坪100万円って言われて、今は坪180万円でできればいい。同じ魚の花を今作るなら、多分5,000万円じゃきかない」
落ち着く未来はあるかと聞くと、「ないですね。基本、上がっていくしかない」。だからこそ「やるんだったら居抜きじゃないと無理だと思う。せめて電気・ガスのライフラインが通っている状態」と篠田さんは言い切る。
月商300万円の夏。それでも、ブレなかった
魚の花は5月にオープンした。オープン景気の5月・6月を過ぎると、7月・8月は月商300万円まで落ちた。「9月も同じだったら…」という状況。そこで篠田さんが取った行動は、節制ではなかった。
「普通はみんな節制すると思うんですよ。もうやばいから使わないようにしとこうとか。僕は逆で、後悔したくないから使っちゃおうと思って。仕入れを絞ろう、使ってたもののランクを落とそう——それはなかったですね」
値下げもしなかった。周囲に「やばいかも」とも言わなかった。
「やってることが間違ってないって思ってたから。これで売れなかったらもうどうしようもない、俺たちの料理で受け入れられないんだったら、もう無理だなって。だから何もブレなかったですね」
9月、初回来店した方のリピートが増え売上は戻った。1年経つ頃には店は軌道に乗った。苦しいときに削るか、貫くか。「価格と品質はブレさせない」という選択が魚の花を生き残らせた。
その5年後、篠田さんは4店舗目を作ろうとしている。ここからは、これから開業する人のために聞いた「実務のリアル」を順番に。

開業の順番は「人、物件、お金」
開業準備というと、まず資金集めを思い浮かべる人が多い。篠田さんの答えは逆だった。
「お金が一番最後かもしれない。お金はなんとかなるんで。かき集めようと思ったら集められるし。1番は、人じゃないですかね。人がいて、人がいるから物件を探して、物件が見つかったら融資かな」
人がいなければ店は開けられないし、広げられない。経験者は口を揃えて「人が先」と言う。
物件は「エリア」から探す。情報はメーカーから流れてくる
「僕は結構エリアで探すんですよ。人が集まる場所なのか、富裕層が住んでいる場所なのか。僕らが得意な武器で戦えるところ、今の業態からそんなに外れないでいけるエリアをまず絞って、そこからやっと物件に行く」
物件情報の入手先も、不動産屋だけではなかった。
「サントリーさん、サッポロさん、アサヒさん。メーカーとか酒屋さんに声をかけておく。だって、お店を辞めるとき一番最初に相談するのって、お世話になっているメーカーさんじゃないですか」
閉店の情報は、市場に出る前にメーカーと酒屋を流れる。これから独立する人へのアドバイスも実践的だ。「居抜きのサイトに登録して、ひたすら内見に行く。居抜き店舗の人と仲良くなる」。
ちなみに魚の花の物件は、住居を探していたSUUMOで偶然見つけたという。SUUMOには本来、そういった物件が掲載されることはないそうだ。しかし、なぜかずっと探していた飲食可のテナントが、しかも家賃値下げ直後というタイミングで出ていた。「奇跡の物件」は、探し続けている人のところにしか落ちてこない。
融資のリアル——営業許可証は、店ができてからしか取れない
融資まわりには、経験者しか知らない矛盾がある。代表例が営業許可証だ。
「融資を受けるとき、営業許可証が必要になるんですよ。なんですけど、営業許可証って厨房ができてからじゃないと取れないんで。マジで矛盾してるんですけど、それを作るために融資が必要」
実務では「申請済み」の書面をもらって融資を進める。見積もりは前述の通り「わかりません」の世界なので、着工後の想定外に対応できる計画性が問われる。なお融資には使途が決まった「設備資金」と自由度の高い「運転資金」があり、運転資金の審査は「めちゃめちゃ厳しい」とのこと。
1店舗目こそ、小さく始めるな
意外だったのはこれだ。低リスクに見える「小さく始める」を、篠田さんははっきり否定する。
「後輩が12坪とかでやるって言ったら、やめろって言う。リターンが少ないから、次の展開が見えなくなっちゃう。自分が現場を抜けられない、何より人材育成ができない」
「銀行が見ているのは結局、売上。18坪40席で800万円売れば(粗利で)400万円。売上を作るのはめちゃめちゃ大事なこと」
小さい店は利益率こそ高いが、次の融資につながる「数字」が作れない。5年で4店舗のスピードは、1店舗目の規模設計から始まっていたのかもしれない。
篠田匠さんの開業メモ
| 初期費用 | 想定の1.5倍を覚悟。坪180万円時代、居抜き一択 |
| どん底期 | 品質と価格はブレさせない |
| 開業の順番 | 人 → 物件 → お金 |
| 物件情報源 | メーカー・酒屋への声かけ+居抜きサイト+ひたすら内見 |
| 見積もり | 「わかりません」が前提で進む |
| 1店舗目の規模 | 小さすぎると次の展開が遅れる。銀行は売上を見る |
取材後記
合羽橋で器を選ぶ篠田さんは、新店の話をしながらずっと楽しそうだった。「危険なんだけど、それぐらいのペースでできるビジョンは見える」と笑う5年目。
飲食のトビラでは、開業に密着させていただける店舗を募集しています。詳しくは取材のご依頼へ。



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